法定相続人の範囲と持分【基礎知識/相続】

祖父(春松)、祖母(いま)、父(一郎)、母(道子)、長男(太郎)、長女(はな子)の6人家族がいます。

父(一郎)がある日突然死亡し、相続が発生しました。遺言書はなく、父(一郎)には、弟が2人(次郎・三郎)もいます。

この時、相続人は誰でその持分はどうなるでしょう?

このあたりは皆さんご存知でしょうか。

配偶者(道子)が1/2、子供が1/2(太郎1/4・はな子1/4)と思いますよね?

それ、実は正解とはいえないんです。

相続が発生した時の民法を適用するので、父(一郎)がいつ亡くなったのかによって結果が変わるからなんですね。

下記の表をご覧ください。

死亡の日 相続人の範囲と持分
1-1 旧民法(家督相続)

期間は、1-2と同じ

家督相続人
👉 旧民法では、2つの相続形態があり、家督相続とは、戸籍上の「戸主」の地位・全ての財産を通常長男1人が相続するという形態です。

家督相続では、死亡だけでなく、隠居等も家督相続の開始として認められていたので、祖父(春松)が生存していても、隠居による家督相続で一郎が戸主になる事も可能です。


一郎が「戸主」だった場合、 長男(太郎)が家督相続人となり全財産を相続します。

1-2 旧民法(家督相続を除く)

明治31年7月16日

~昭和22年5月2日

第1順位 直系卑属
第2順位 配偶者
第3順位 直系尊属
第4順位 戸主
👉 1-1の家督相続に対して、「遺産相続」といい、「戸主以外」の家族の「死亡」による財産の相続をいいます。

兄弟姉妹は相続人の範囲に含まれていないですね。

現行法では「遺産相続」しかないので、単に「相続」といえば「遺産相続」の事を意味します。


一郎が「戸主以外」の場合(祖父の春吉が戸主とします。)、直系卑属である子供(太郎1/2・はな子1/2)が相続人となります。

妻の道子が可哀想と思いましたか?これ、配偶者は第2順位ということなので、仮に道子が死亡した場合でも結果は同じ、相続するのは子供だけで夫の一郎も相続人となりません。

応急処置法

昭和22年5月3日

~昭和22年12月31日

配偶者があるときは、配偶者は常に相続人となる
第1順位 直系卑属(2/3)
第2順位 直系尊属(1/2)
第3順位 兄弟姉妹(1/3)(代襲なし)
👉 家制度の廃止とともに、家督相続も廃止されました。8ヵ月弱の応急処置法ですが、この期間に相続が発生すれば、この法律を適用します。

戸主が廃止されたので、兄弟姉妹が相続人の範囲に加わり、そして配偶者が「常に」相続人となりました。

それに伴い、「持分」が追加されてますね。しかし配偶者の持分は少ないです。


一郎死亡: 配偶者である妻(道子2/6)、直系卑属である子供(太郎2/6・はな子2/6)が相続人となります。

3 新民法

昭和23年1月1日

~昭和37年6月30日

配偶者があるときは、配偶者は常に相続人となる
第1順位 直系卑属(2/3)
第2順位 直系尊属(1/2)
第3順位 兄弟姉妹(1/3)(代襲あり
 👉 現行民法の開始です。この後、一部改正をしていきます。

兄弟姉妹の代襲相続なし→ありになっています。


一郎死亡:今回の事例では、上記2と結果は同じです。

4 新民法

昭和37年7月1日

~昭和55年12月31日

配偶者があるときは、配偶者は常に相続人となる
第1順位 (2/3)(代襲あり
第2順位 直系尊属(1/2)
第3順位 兄弟姉妹(1/3)(代襲は子のみ
 👉 一部(代襲相続等)改正です。第1順位が、直系卑属→子(代襲あり)になっています。この違いに意味はあるのか?と思われる方もいるかもしれませんが、ここでは省きます。

兄弟姉妹の代襲は子のみになりました。亡くなった方からみて、甥姪までと制限を付けたという事ですね。


一郎死亡:今回の事例では、上記2.3と結果は同じです。

5 新民法

昭和56年1月1日~

配偶者があるときは、配偶者は常に相続人となる
第1順位 子(1/2)(代襲あり)
第2順位 直系尊属(1/3
第3順位 兄弟姉妹(1/4)(代襲は子のみ)
 👉  一部(相続分等)改正です。やっと配偶者の持分が増えましたね。よって、第1.2.3順位の持分がそれぞれ減っています。


一郎死亡: 配偶者である妻(道子2/4)、直系卑属である子供(太郎1/4・はな子1/4)が相続人となります。

いかがでしたか?現行法は、昭和56年からですので、それ以前の民法についてはあまり関係ないかもしれませんが、こうやって旧民法からの流れをみてみると、意外と面白いですよね。

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